日本農業市場学会『講座 これからの食料・農業市場学』の刊行に当たって
日本農業市場学会では、2000年から2004年にかけて『講座 今日の食料・農業市場』全5巻(以下では前講座)を刊行した。前講座は、1992年に設立された学会の10周年を機に、学会の総力を挙げて刊行したものであった。前講座は、国際的にはグローバリゼーションの進展とWTOの発足、国内においては「食料・農業・農村基本法」制定までの時期、すなわち1990年代までの食料・農業市場を主として対象としたものであった。
前講座の刊行から約20年が経過し、同時に21世紀を迎えて20年余になる今日、わが国の食料・農業をめぐる国際的環境と国内的環境はさらに大きく変化し、そのもとで食料・農業市場も大きく変容してきた。
そこで、本年が学会設立30周年の節目に当たることから、『前講座』刊行後の約20年間の食料・農業市場の変化と現状、今後の展望に関して、学会としての研究成果を再び世に問うために本講座の刊行を企画した。その際に、食料・農業市場をめぐる対象領域の多面性を考慮し、以下の5巻から構成することにした。
第1巻『世界農業市場の変動と転換』(編者:松原豊彦、冬木勝仁)
第2巻『農政の展開と食料・農業市場』(編者:小野雅之、横山英信)
第3巻『食料・農産物の市場と流通』(編者:木立真直、坂爪浩史)
第4巻『食と農の変貌と食料供給産業』(編者:福田晋、藤田武弘)
第5巻『環境変化に対応する農業市場と展望』(編者:野見山敏雄、安藤光義)
各巻・各章においては、それぞれのテーマをめぐる近年の研究動向を踏まえつつ、前講座が対象とした時期以降、とりわけ2010年代を中心とした世界とわが国の食料・農業市場の変容を、それに影響を及ぼす諸要因、例えば世界の農産物貿易構造、わが国経済の動向と国民生活・食料消費構造、食料・農業政策の展開、農産物・食品流通の変容、農業構造の変動などとの関連で俯瞰的かつ理論的・実証的に描き出すことによって、日本農業市場学会としての研究の到達点を示すことを意図した。
本講座の刊行に当たって、学術書をめぐる出版情勢が厳しいなかで、刊行を快く引き受けていただき、煩雑な編集作業に携わっていただいた筑波書房の鶴見治彦社長に感謝したい。
2022年4月
『講座 これからの食料・農業市場学』常任刊行委員
小野雅之、木立真直、坂爪浩史、杉村泰彦
第1巻『世界農業市場の変動と転換』(編者:松原豊彦(立命館大学)、冬木勝仁(東北大学))
筑波書房、2023年。
序 章 大変動期に入った世界農業市場(松原豊彦/立命館大学)
第1章 WTO交渉の頓挫とFTAの拡大─貿易自由化の本質─(鈴木宣弘/東京大学)
第2章 農業資材産業とグローバル資本による市場・技術・資源・規範の包摂(久野秀二/京都大学)
第3章 グローバル・アグリフードビジネスによる包摂と市民社会の抵抗─持続可能な農と食の規範をめぐる攻防─(関根佳恵/愛知学院大学)
第4章 アメリカ農業食料貿易の構造と政策の現局面(磯田 宏/九州大学)
第5章 EU農業─環境・市場・再分配─(石井圭一/東北大学)
第6章 中国農業─農産物輸入の急拡大と農業構造政策への転換─(大島一二/桃山学院大学)
第7章 グローバル市場再編下での東アジア農政の展開─日本を中心に─(冬木勝仁/東北大学)
第8章 東南アジア新興農業国と多国籍アグリビジネス(岩佐和幸/高知大学)
第9章 台頭するブラジル農業での資本の包摂と抵抗(佐野聖香/立命館大学)
第10章 先進国の家族農業経営─米国北東部の酪農にみる─(佐藤加寿子/熊本学園大学)
第11章 アグリビジネス主導の「農業の工業化」とオルタナティブ(椿真一/愛媛大学)
第2巻『農政の展開と食料・農業市場』(編者:小野雅之(摂南大学)、横山英信(岩手大学))
筑波書房、2022年。
序章 新自由主義農政の展開と食料・農業市場(小野雅之/摂南大学)
第1章 「アベノミクス農政」による食料・農業市場の新自由主義的再編(横山英信/岩手大学)
第2章 経営安定対策の展開と課題(東山寛/北海道大学)
第3章 農業構造政策の展開─食料・農業・農村白書から─(竹島久美子/愛媛大学)
第4章 今日的農産物輸出政策の展開と輸出の内実(成田拓未/弘前大学)
第5章 流通再編下における米の需給調整・市場政策の展開と課題(伊藤亮司/新潟大学)
第6章 畑作物の需給と政策(坂井教郎/鹿児島大学)
第7章 青果物における生産・流通政策の展開と産地対応(細野賢治/広島大学)
第8章 酪農・畜産政策の新自由主義的改革と生乳流通(清水池義治/北海道大学)
第9章 2010年前後からの水産物流通・消費政策の展開と特徴(副島久実/摂南大学)
第10章 卸売市場政策の変質と今後の卸売市場(矢野泉/広島修道大学)
第11章 農政と消費者政策─消費者の権利と国民理解の促進─(大木茂/麻布大学)
第3巻『食料・農産物の市場と流通』(編者:木立真直(中央大学)、坂爪浩史(北海道大学))
筑波書房、2022年。
序章 農産物・食料流通の現代的変容の基調とその諸局面(木立真直/中央大学)
第1章 産地内外の構造変化と産地システムの変貌(徳田博美/名古屋大学)
第2章 加工・業務用野菜の特徴と産地形成(小林茂典/石川県立大学)
第3章 野菜の加工・業務需要に対応した産地中間業者の展開─ビジネスモデルの視点から─(佐藤和憲/東京農業大学)
第4章 米市場における流通機構の展開と需給調整(小池(相原)晴伴/酪農学園大学)
第5章 小売業再編とスーパーによる青果物調達システム(坂爪浩史/北海道大学)
第6章 食肉小売流通の今日的特徴(戴容秦思/摂南大学)
第7章 インテグレーション型流通の現段階と構造的特質─鶏肉産業を中心に─(野口敬夫/東京農業大学)
第8章 生協産直の到達点と可能性(佐藤信/北海学園大学)
第9章 地産地消運動の現段階と農産物直売所の果たす役割(櫻井清一/千葉大学)
第10章 地産地消型学校給食と食材・食品流通(脇谷祐子/就実短期大学)
第11章 インターネットを利用した農産物流通(末永千絵/秋田県立大学)
第12章 「物流危機」と中小規模卸売市場の集荷物流問題(杉村泰彦/琉球大学)
第13章 農産物の規格・認証制度(農産・水産領域におけるGAP認証を中心に)(橋本直史/徳島大学、天野通子/愛媛大学)
第4巻『食と農の変貌と食料供給産業』(編者:福田晋(九州大学)、藤田武弘(追手門学院大学))
筑波書房、2022年。
序章 農業・農村から食を伝える(福田晋/九州大学)
第1章 6次産業化の現状と課題(内藤重之/琉球大学)
第2章 農商工連携の現段階と今後の展開方向(岸上光克/和歌山大学)
第3章 食農連関の再構築と都市農村交流への期待(藤田武弘/追手門学院大学)
第4章 外食・中食産業の調理・食材調達の変化(高梨子文恵/東京農業大学)
第5章 食品産業における原料調達行動─開発輸入先の広域化に関する考察─(菊地昌弥/桃山学院大学、竹埜正敏/富士通商株式会社)
第6章 食の海外展開と輸出─秋田県および小玉醸造における清酒輸出の事例を中心に─(石塚哉史/弘前大学)
第7章 取引が多角化する中での農協マーケティング(森高正博/九州大学)
第8章 農産物・農産加工品のブランディング(八木浩平/神戸大学)
第9章 食生活の変化と消費者行動(中村哲也/共栄大学)
第10章 子ども期の貧困が成人後の食生活に及ぼす影響(石田章/神戸大学、植村麻弥/元 神戸大学、牧野このみ/元 神戸大学)
第11章 食の安全・安心(豊智行/鹿児島大学)
第5巻『環境変化に対応する農業市場と展望』(編者:野見山敏雄(東京農工大学)、安藤光義(東京大学))
筑波書房、2022年。
第1章 環境変化と農業構造(安藤光義/東京大学)
第2章 農地市場の動向と農業市場論的視角の射程(堀部篤/東京農業大学)
第3章 新自由主義経済政策下における農業労働力市場の変貌(今野聖士/名寄市立大学)
第4章 金融市場の変化と農協信用事業の展望(青柳斉/新潟大学)
第5章 肥料・農薬産業と市場構造(長谷美貴広/南開科技大学・台湾)
第6章 配合飼料メーカーの事業展開と酪農・畜産経営(森久綱/三重大学)
第7章 畜産経営におけるスマート技術の導入(安田元/オリオン機械(株)・北海道大学、種市豊/山口大学)
第8章 農業静脈市場の展開と展望(泉谷眞実/弘前大学)
第9章 学校給食市場と食育の展望(片岡美喜/高崎経済大学)
第10章 農協共販の社会経済的役割と展望(板橋衛/北海道大学、林芙俊/秋田県立大学)
第11章 戦後日本農業の「生・消」関係略史─生協の産直に即した整理─(林薫平/福島大学)
第12章 食品ロスと贈与経済(小林冨雄/日本女子大学)
第13章 COVID-19とリスク・コミニュケーション(相原延英/追手門学院大学)
第14章 外部環境の激変と産直の再定義(野見山敏雄/東京農工大学)