日本学術会議法案に反対する緊急声明
2025年 6月 7日
日本農業市場学会 理事会
現在の日本学術会議(以下、学術会議)を廃止し、新たに国から独立した法人格を有する特殊法人「日本学術会議」を設置する日本学術会議法案(以下、本法案)が2025年3月7日に今次国会に提出され、衆議院内閣委員会(5月9日)および同本会議(5月13日)で可決された。しかし、衆議院で本法案に反対した諸政党による質疑はもとより、ノーベル賞受賞者を含む歴代学術会議会長経験者などの研究者や市民社会組織からも、本法案が学術会議の政府からの独立性を担保しないことについての重大な懸念が指摘されている。
顧みれば、本問題は2020年10月、当時の菅義偉内閣総理大臣が、学術会議が推薦した候補者105名のうち6名の任命を拒否するという措置とったことに端を発している。当時本学会理事会は、同年10月14日付で「政府による日本学術会議会員推薦者の一部任命拒否に関しての意見表明」を発出し、政府の対応は学問・科学研究の自由に対する侵害を意味するのではないかとの懸念と併せて、学術会議が法と会則に従って「優れた研究又は業績がある科学者」と判断した推薦者の任命を一部とはいえ拒否したことの説明責任を果たすことを政府に求めた。
しかしながら、政府はこれらの問題への真摯な説明を怠ったばかりか、以下に指摘するように学問の自由に由来する学術会議の独立性・自律性を大きく損なう懸念のある法案を拙速に提出した。よって本学会理事会は、本法案に強く反対する意を表するものである。
私たちが今次法案において、学術会議の独立性・自律性に重大な懸念を抱く主な点は以下のとおりである。
1.役員の一種である「監事」(2名,首相任命)が監事以外の役員(会長・副会長)、会員、職員の「不正行為」「不当な事実」について首相に報告する任務をもって配置されるが、何をもって「不正」「不当」なのかが明確にされないままに、事実上首相が学術会議の活動を常時監視することになる懸念があること(法案の主として第20条、第23条。以下同じ)。
2.学術会議会員候補者の選定に際して「選定助言委員会」(会員以外の科学者で構成、総会選任)が「会員候補者選定方針作成と候補者選定そのもの」に意見することによって、学術会議の会員自治が制約される懸念があること(第26条)。
3.学術会議総会の重大議案作成に際して「運営助言委員会」(会員以外の者で「学術・研究とこれを取り巻く内外の社会経済情勢、産業などにおける研究成果の活用状況」や「組織経営に関し」、「広い経験と高い識見を有するもの」、つまりいわゆる「民間有識者」、会長任命)が意見することによる、学術会議の自治・独立性が制約される懸念があること(第
27条、第36条)。
4.学術会議会員の「解任」規定が置かれ、「会員候補者選定委員会」が「著しく不適当な行為をしたと認める」会員の「解任」を総会に諮ることができる。その場合に「著しく不適当な行為」が全く曖昧な点、この条項に関して提出者としての内閣府特命担当大臣が上記委員会で「特定のイデオロギーや主張を繰り返す会員は今度の法案では解任できる」と答弁したことから窺える、学術会議とその会員の思想信条の自由を侵害する懸念。また上記「監事」が「不当な事実」として首相に報告することをつうじて「著しく不適当な行為」と扱われる可能性についての懸念があること(第25条、第32条)。
5.役員、会員、職員に「職務上保秘義務」が課され、その違反者には刑罰(1年以上の拘禁刑または罰金50万円以下)をともなう。しかし何が「職務上知り得た秘密」かについて、上記委員会で内閣府特命担当大臣は説明しておらず、当該「秘密」の範囲が政府の恣意的な判断で運用されることにより、学術会議の独立性ならびに「公開性」という研究の根本原則も制約される懸念があること(第34条、第55条)。
6.「日本学術会議評価委員会」(内閣府に設置、首相任命)が、①学術会議の最も重大な方針を定める「中期的な活動計画」の策定に際して「意見」し、学術会議はそれを聴かねばならないこと、②学術会議の毎年度「自己点検評価書」を同「評価委員会」に提出し、同「評価委員会」がそれを「調査審議」して学術会議に「意見」を述べ、学術会議はそれを「評価方法の改善に適切に反映」しなければならないことによって、学術会議の独立性・運営の自治が制約される懸念があること(第42条、第44条、第51条)。
以上